2014年夏、シリア国境に近いトルコ辺境の町、シャンウルファでシリア難民にインタビューをした。日本人の立場から、彼らに何ができるのか。当時、その答えは出なかった。
「あなたたちは何もしてくれない。だから私は神に祈るの。」というシリア難民女性の言葉が、しこりのように心に残っていた。紛争で帰る場所をなくした人々に対して、私は何ができるのか。その答えを探すため、スタディ・ツアーに参加した。
イスラエルとパレスチナは、分離壁によって物理的に隔てられている。高さ8mの壁は、予想以上の威圧感でそびえ立っている。最も印象的な光景だ。分離壁の建築が始まったのは2002年。以来、イスラエル人とパレスチナ人との交流は以前にまして減ってしまった。分離壁という物理的な壁は、両者の間に心理的な壁も構築してしまったのだ。イスラエル人はますます「テロリスト」としてパレスチナ人を捉え、パレスチナ人はますます「占領者」としてイスラエル人を捉える。疑心暗鬼が敵意と恐怖を増幅させ、そこから生じる暴力が憎悪を生み、負の連鎖が起きている。
両者の間の壁を低くするために、できることはないのか。長期的には「教育」に希望を感じた。プログラム中、エルサレムの「HandinHand(手に手をとって)」という学校を訪問した。イスラエル人とパレスチナ人の子どもが一緒に学んでいる。互いの文化や宗教、歴史を理解することで、両者は敵同士ではなくなるかもしれない。
短期的には、SNSが有効な手段となるかもしれない。Facebookの「AddtoFriends」は、互いの日常を同一ウォール上に共有する。イスラエル・パレスチナ間の情勢が不安定になれば、互いの身を案じてメッセージを飛ばす。他人事が、友だちの抱える問題になる。実際にこれまで本ツアーに参加した学生は、今でもSNS上で繋がっているという。そうして心の壁を低くすることが、分離壁をなくす一つの手段になるかもしれない。
心理的な「壁」は、日本とイスラエル・パレスチナの間にも存在する。それは、無関心の壁である。私は本ツアーに参加するまで、パレスチナ問題に関心をもつことはなかった。無関心であるがために、そこでの実状や苦境を知ることもなかった。
日本人の私にできることは、日本とイスラエル・パレスチナの間に立つ、無関心の壁を取り払うことではないか。本ツアーでの経験を、少しずつでも発信していきたいと思う。
(文 辰巳 奈緒/2016年スタディ・ツアー参加者)