思い出すのは20年ほど前、西岸南部の中心都市ヘブロンで、別のイスラエル人権団体が入植者による嫌がらせからパレスチナ人集落を守る活動を取材に行った時のことです。この集落では、近くの入植地から入植者たちがやって来ては、家々に投石した り、物を投げ込んだりするので、人権団体の活動家たちが金網を張りに来たのでした。暫くすると入植者たちが来て、この活動を妨害し始め、写真を撮る記者に突っかかって来ました。すると間もなく、イスラエル兵がやって来て、紛争を防止するためと称して、一帯を「立ち入り禁止区域」にし、活動家と記者を追い出したのです。騒ぎの原因が何かを聞くこともなく。入植者による蛮行は相変わらずか、と思ったものです。
占領地での入植活動は国連決議で禁止されています。違法というだけでなく、入植地はパレスチナ人の土地を奪い、その保護を名目にした治安措置がパレスチナ人の移動をはじめ、生活に制約を加えています。国際的には、親イスラエル色が強い米国 でさえ、今のオバマ政権は入植地が和平の妨げに なっていると批判を強めています。国内でも、西岸での兵役でパレスチナ人の人権を無視した軍務に就かされた元兵士たちが告発を始めたという動きがあります。
このような元兵士や人権団体による活動の存在は、イスラエルの民主主義の強さを示すものといえ ます。しかしパレスチナ人の人権を主張する活動に対しては、極右政党も加わる現政権や右派勢力から、軍を貶め、イスラエルの治安を弱めるものだという攻撃が強まっていると聞きます。これらの活動の行方が気にかかります。
(文 当団体理事 村上宏一/元朝日新聞エルサレム特派員、中東支局長)