▲写真:立派に成長したファディと
今年4月、日本の巡礼者とともにベツレヘムの羊飼いの教会を訪れた時、一人のパレスチナ人青年が「ヒロコ〜、ヒロコ〜!」と叫びながら駆け寄ってきて、私をきつく抱きしめてくれた。それは15年ぶりに再会するファディだった。
彼に初めて会ったのは、25年くらい前、「10コ、センエン!」「10コ、センエン!」と言いながら、金色の魚の形をしたキーホールダーを巡礼客に売っていた7歳の少年だった。その頃巡礼された中には憶えておられる方もあるかもしれない。私はベツレヘムへ行くたび、日本人の方々に、「彼が学校へ行かれるように、良かったら買ってあげてください」とお願いしていたのである。次に出会ったのは、彼が高校を卒業してアメリカに行く前。すっかりたくましくなり、ひげも生やし始めた彼の姿にびっくりしたものだった。アメリカへ行くという夢の実現を前に、期待に胸を膨らませていた。
そして今回の3度目の再会。私の姿を見かけた親戚から、「ヒロコがベツレヘムに来ている」と連絡を受けて、すぐ車に乗って駆けつけたのだという。今はもう32歳、1枚の名刺を渡してくれた。彼の名前や住所とともに、「みやげ店」の表記があったので驚いた。昨年ベツレヘムに帰り、14年間アメリカで貯めたお金で、聖誕教会近くに大きな店を出すことができたのだという。そしてこう付け加えた。
「Japanesepeoplemademyway,thankyouverymuch!」
(日本の方たちが私の道を開いてくださった。ありがとう!)
その場におられた方々は、恩を忘れず心から感謝するファディに感動された様子。私も彼の成長した姿と素直な感謝の言葉に胸が熱くなった。
聖地では、ファディのほかにも多くの子どもたちが、日本からの支援に感謝しながら勉学に励み、夢の実現に向けて頑張っている。
日本の皆様が聖地の子どものために支援を続けてくださるその実りの一つがファディなのだ。
(文 井上 弘子/当法人理事長)