2021年8月上旬 エルサレムにて
(文 ヤクーブ・ガザウィ/現地スタッフ)
今日は聖地の現状を日本の皆様にお伝えしたいと思います。ここでもこの新型ウイルスの試練が始まって1年半が経ち、加えて、11日間にわたるイスラエル・パレスチナ紛争の混乱も体験しました。多くの犠牲者を出ましたし、ユダヤ系市民とアラブ系市民たちの争いも辛いものでした。
イスラエルでは、この間、新しい政府が成立し、私たちは、コロナ禍とネタニヤフ首相からやっと解放されると思っていました。しかし、政府さえ替われば事態は好転すると思っていた私たちの期待は、数週間たった今、見事に裏切られました。現在、私たちはデルタ株の感染爆発に直面しています。8月上旬には、感染者数は日々、約4000人(イスラエルの人口は日本の1/13なので、日本に換算するとこの13倍、52,000人/日になる:訳者注)、収束の見通しは全く立っていません。新しい政府は前政権とネタニヤフをおとしめることしか考えておらず、国民の信頼を失うばかりです。
イスラエルでもパレスチナでも人々の生活苦は増しています。物価は高騰し、すべてが増税の対象です。ガソリン価格は天井知らずで、現在は1リットル205円になっています。しかも収入の減少は止まらず、イスラエルでの貧困率は劇的に急増しています。
以前は反ネタニヤフだった人々も、今では彼に帰って来てほしいと願っているほどです。彼の為政者としての豊富な経験が今は必要だと感じているのでしょう。
イスラエルとパレスチナの関係は少し改善されていると思います。イスラエルは、ホテルマネジメント、建築業、医療や保健分野で、パレスチナ人労働者の助けを必要としているからです。
新政府の外交政策についても私たちは憂慮しています。メディアによれば、何らかの理由で、オマーンがイスラエルとの「平和協定」を破棄したと伝えられていますが、明らかに極右の現政権に原因があるのでしょう。
イスラエルでは新しいジョークが流行っています。「この国では首相になって国を治めるには、力ある優秀な政治家である必要はない、たった7議席があればよい!」(訳者注:ベネット新首相が率いる極右政党「ヤミナ」の議席は7つ)
現在のイスラエルの政治状況は混沌としており、極右から極左まで含む政府があって、反対勢力は右派のみです。こんな政府がどう機能するのか全く不思議です。私たちは一日も早い政権交代を願っています。
パレスチナ側でも状況が良いわけではありません。つい先日もパレスチナ人活動家が同胞に暗殺されました。理由は、アッバス議長とその一族など時の権力がパレスチナの財源をコントロールしていること、さらに本年5月に予定されていた総選挙を恣意的に延期したことを、彼が勇気を持って指摘し、批判したからだと言われます。とにかく現指導者に対する一般のパレスチナ人の信頼は全く失われてしまいました。
私は職場の教会事務所で、コロナの影響で困窮にあえぐ人々に日々接しています。彼らは、子どもの学費、水道光熱費や家賃を払うこともできず、どのように生活を立て直せるのかの希望も見えていません。(訳者注:聖地では、フランシスコ会が貧しい人々を援助しようと努力している。) 特にイスラエル国籍のアラブ人の貧困率が80%にも達し、日々の生活必需品さえも入手困難な状態を見て、私は、「絶望した」とは言いませんが、人々の窮状は危機的状況にあると言わざるを得ません。彼らはほんとうに助けを必要としている。現政権はまもなくロックダウンを宣言するでしょうが、それでもほとんど補助金は出さないと公言しています。
高い失業率も心配です。最大の試練にさらされているのは、イスラエル・パレスチナ経済の20%を占める観光業の人々でしょう。残念ながら、旅行会社やバス会社、観光客を相手にするホテル、商店、レストランなどの倒産があとを絶ちません。多くの家族が故国を捨てて外国に活路を見出したいと考えているのも気がかりです。
教育に関して言えば、現在は夏休みですが、いつ、どのような形で再開できるかは不透明です。
現在人々の苦しみ、特に若者たちの不安を増大させているのは、あらゆる点で未来を見通せず、希望の光を見出せないことではないでしょうか?
日本の支援者の皆様、様々な困難の中で、明るい未来への道を何とか見出したいと願っている聖地の人々、特に子どもたちや若者たちのために祈って下さい。そして彼らが祖国に住み続け、未来を切り開いていくことができるよう、引き続き温かいご支援をお願いいたします。
(翻訳 井上 弘子)