▲写真:アイーダ難民キャンプにある分離の壁
皆さま、初めまして。2015年「スタディーツアー・平和を願う対話の旅」参加者の本吉祐樹です。現在はイギリスの大学院で、国際法、とりわけ国際紛争やテロについて研究をしています。ツアーへの参加を通して私が感じたこと、そしてそれが現在の私にどのような形で活かされているかについて書かせていただきます。
10日間で、イスラエル・パレスチナの各地を周り、これまでは本や映像を通じてしか知ることのできなかった実際の有様を、肌で感じることができました。エルサレム、ベツレヘム、テルアビブと、歴史や文化がそれぞれ異なる都市をめぐり、またホームステイを通じて現地の家族と触れ合うことで、複雑な状況が続いているパレスチナ情勢について理解を深めることができました。さらに、小学校や養護施設など、なかなか観光では訪れることができない施設を訪問する機会にも恵まれました。
エルサレムでホームステイをさせていただいたヤクーブ家は、大変アットホームなパレスチナの家族で、皆で食事をし、語り合い、まさに一つの家族のように時間を過ごすことができました。また家もエルサレム旧市街のキリスト教地区という歴史ある場所に位置し、夜景の美しさもまた素晴らしいものでした。テルアビブでの、イスラエルの家庭においては、ホスト先の学生とイスラエル、パレスチナの現状やその今後について忌憚無く意見交換をすることができました。
そして、極めて印象深かったものが、パレスチナの分離壁の視察でした。これは私が、イスラエル・パレスチナに関心をもった最大のきっかけでした。この壁は、テロ対策としてイスラエル政府によって2002年頃から築かれましたが、その多くがパレスチナの領域に食い込む形となり、町が分断されるなど、影響を及ぼしています。私は自身の研究において、この分離壁についての様々な資料に目を通していたため、実際の壁を目にした時の感慨は大きなものでした。また、その後の施設やベツレヘム市長との会見などから、分離壁が計り知れない影響をパレスチナの人々に与えていることを理解しました。
これらを含め、このツアーで体験したイスラエル・パレスチナの現状をとおして、研究者を志す自らの足元を見つめなおし、考える契機となりました。
私の専門分野である国際法は、国際秩序の安定と国際平和の実現を大きな目的としております。しかし、残念ながらイスラエル・パレスチナは、いまだ平和の実現と安定には至っていません。イスラエル・パレスチナのみならず、イラクやシリア、さらに南シナ海など世界各地でも起こっていることについて、研究者の取り組みが求められると考えます。
スタディーツアーを機に、さらに研究を進め、困難を抱えた人々の苦しみを少しでも和らげられるような法整備や、制度構築などを考え、少しでも平和を創る手助けをしていきたいと思います。平和というのは、盲目的に願って実現するものではなく、不断の積極的な働きかけによって築くものです。特にパレスチナ情勢の安定には、日本の力が大いに必要とされており、幅広い支援が求められています。私もイスラエル・パレスチナと今後も関わりを持っていきたいと思います。
苦しい状況に置かれているイスラエル・パレスチナの子どもたちに笑顔が訪れる日が、1日も早く来るよう心から願っています。
(文 本吉 祐樹/イギリス・ニューカッスル大学 博士課程)