▲エルサレムの超正統派の人たちが住む地区を見回るマスクをつけた警官
「聖地のこどもを支える会」支援者の皆様、お元気ですか。2018年11月に発行されたオリーブの木No.70でパレスチナ生活の所感をお伝えした池上遥です。毎日が冒険だったジェリコでの一時滞在を無事に終え、その後エルサレムに移り、現在はイスラエルの民間企業で働いています。
新型コロナウイルスは地球規模で蔓延し、感染者数は250万人近く、死者数は17万人を超えました。世界中がこの未曾有の事態を乗り越えようと必死ですが、イスラエル・パレスチナでも同様にこの危機と対峙しています。4月21日現在、イスラエルでの感染者数は1万4千人近く、181人の死者が出ています。(イスラエルの人口はわずか約700万人ですから、感染者の比率は日本より圧倒的に多いです。)パレスチナでは感染者数が314名で、2名の死者が出ています。(パレスチナの人口はガザ地区も合わせれば500万人近く、感染者数はまだ比較的少ないですが、これからロックダウンが解除されると爆発的に増える危険性があります。)
▼イスラエルでは3月第2週目から感染者が急増
2月末から世界でいち早く外国人の入国を制限し、水際対策を実施してきたイスラエルでしたが、3月第2週目のプリム祭(ハロウィンのようなユダヤ教の宗教行事)が終わった後、感染者が急増しました。この事態を受け、3月12日には幼稚園から大学まですべての教育機関を閉鎖し、特定の職種以外の人は15日以降、原則、自宅で勤務するようイスラエル政府が国民に呼びかけました。私が勤めている会社からも15日以降は在宅勤務の指示がきたので、しばらく会社に行っていません。特に子供がいる社員は、一日中子供の面倒を見ながら仕事もしなければならないため、かなり疲れている様子ですが、会社が社員のメンタル面をケアするための施策を打ってくれているので、大変ありがたいです。
さらにイスラエル政府は3月19日に非常事態宣言を発令し、国民の命を守ることを最優先させるためのさらに厳しい措置を取ってきました。現在は食料品の購入や、通院など特別な用事がない限り、家から100m以上遠くに外出することはできません。外出時のマスク着用も義務化されています。規則を破ると罰金を取られたり、禁固刑に処せられたりします。籠城生活が始まってから5週間が経ち、3.6%だった失業率も30%近くまで上がり、経済への影響が心配ですが、まずは感染拡大を抑えるために国内の人の移動を制限することに注力しています。昨日(4月20日)から段階的に移動の制限を緩め、経済を回復させていくよう政府が発表しましたが、依然として経済的打撃を受けている国民がどのような補償を受けられるのかについては議論中です。
▼パレスチナではギリシャ人観光客から感染
パレスチナでは、2月末にベツレヘムに来たギリシャ人観光客をきっかけに、3月5日、7人のパレスチナ人の感染が初めて確認されました。同日、パレスチナ政府は緊急事態宣言を発令し、外国人の入域を禁止、そして全ての教育機関、モスク、教会を閉鎖しました。また、3月7日にはイスラエル政府からの要請を受け、ベツレヘムを都市封鎖しました。
現在は、イスラエルと同様に原則、特別な用事がない限り外出を禁止しています。パレスチナでもコロナによる経済的打撃は大きく、4月9日、シュタイエ首相はコロナによるパレスチナの経済的損失は38憶ドルほどになると発表しました。特にベツレヘムは観光業に従事している人が多いため、外国人の入域を禁止している現在、彼らの経済的状況は深刻です。今は世界中の誰もが苦しい状況にあり、パレスチナに住む人々の日常は報道されにくいため、私のパレスチナ人の友人の近況を皆様と共有したいと思います。
- ベツレヘム難民キャンプでツアーガイドをしている友人A
「コロナの影響で収入がなくなった上に、食べ物などの物価が上がっているから、生活に必要なものをいつまで買えるかわからないんだ。当初、ベツレヘムの都市封鎖は1か月の予定だったのに、さらに1か月延長することになってしまった。パレスチナ政府は何もしてくれないから、今後の生活が心配だよ。」
- ジェリコのホテルで働いていた友人B
「大学でホテル経営学を専攻していたので、念願かなって今年からやっとジェリコのホテルで働き始めたの。コロナの影響で観光客がジェリコに来なくなっても、しばらくの間はホテルで働いていたんだけど、残念ながら仕事は無くなってしまったわ。今はイスラエルで職を見つけた夫と一緒にイスラエルに引っ越して、専業主婦をしているよ。」
- ラマッラでビューティーサロンを経営している友人C
「コロナの影響でお店を営業できなくなったので、今は両親がいるラマッラ近郊の村に帰っているのよ。普段は仕事で大忙しだったから、今はコロナのおかげで家族といつも一緒にいられて嬉しい。でも、いつ営業再開できるかわからないのは不安だわ。」
パレスチナのようにもともと貧困に苦しむ人たちが多く医療体制も脆弱な地域では、このような非常事態の影響は計り知れません。国際社会とパレスチナ政府が協力し、この危機を乗り越えていく必要があると思います。
日本でも日を追うごとに感染が拡大し、落ち着かない日々が続きますが、どうぞご自愛くださいね。
(文 池上遥)
(写真 HAARETZ)